恋はたいぎぃ(岡田靖幸)

 親はたいぎい。学校はたいぎい。先生はたいぎい。隣のクラスの智春くんもたいぎい。つまり恋はたいぎい。じゃあ愛は?

 公園ではしゃぐ清美と杏奈を見て、この世は平らじゃないなと本気で思ってて、百均で買った水鉄砲の撃ち合いの末、私を盾にしながら辛勝した杏奈に「おめでとう」と言えたのも、それが分かっていたからか、口の中で溶けたアイスクリームがお腹に溜まったからなのかもしれない。

 学校は長いけど、いつか終わる。と、毎日下校しながら信じていて、でも本当はそんなこと全然なくってずっと終わらない監獄、なわけもないだろう。だけど、家は無くならない。お母さんは優しくて心配性で、お父さんは飲んだくれで優しくて、お兄ちゃんは意地悪で優しくて私はそんなみんなを殺したい。えいっ! って軽く。処刑軍団ザップみたいにヒョイっと首をもぎたい。

 テレビもお風呂も自由に使えて、ツイッターでもフェイスブックでも横暴な私。だけどみんなが嫌いになれない私。そんな私を私はどうしたいのだろう。無意味に動かす盤上の駒。進んだり戻ったりするその駒の役目は一体なんだろう。

 智春くんに処女をあげた。彼はすっごく喜んでソレをもらってくれて、もらってくれたあともデレデレと嬉しそうで誇らしげですらあった。私は智春くんに処女をあげるために生きてきたのかもしれない。でも、智春くんはダンプに吹っ飛ばされてバラバラ死体。

 別に泣かなかったけど、みんなは泣いたし確か清美と杏奈もボロボロ泣いてた。でも、今はこうして元気にしてる。みんな元気にしてる。私はいつも元気。智春くんのことはすぐ忘れたけど今になって、あの時の顔だけプワプワ浮かんでくる。インスタには良さげな写真をいっぱいアップしてる私。

 最近考えてる。彼のこと。でも暑くなってきていつの間にか忘れて、又ふと思い出す彼の顔。同じクラスの男子とえっちなLINEしてるそんな時にも。家も学校も恋もたいぎい。じゃあ、じゃあ愛はなんだろうか。柄じゃなさすぎてこんなのどこのSNSにも呟けないけど、最近はそんなことを考えてる。プワプワしないシンプルな答えがその先にあると信じて。

フェスボルタ文藝部

”電話一本で誰でも出られるフェス”こと『フェスボルタ』から、部活を始めます。小説、エッセイ、評論、体験談、旅行記、戯曲、インタビューetc.みんなで文章書こうぜ。

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