掌編小説「その両生類は、カエル。」(高柳孝吉)

   そのカエルは豪雨に打たれて、さすがの雨好きの不思議な両生類も尻尾をまいて逃げだそうかとしていた。もっともカエルに尻尾は無いが。そこを助けようとした僕を見てか、又逃げようとした。そこを、猫に捕まった。
    
   あの時僕が助けようとしたければカエルが猫に捕まる事はなかっただろう。猫は走り去っていった。その後カエルがどうなったのかは知らない。猫に食われたか、猫ごと豪雨に呑み込まれてしまったか。でもこうも思うのだ。カエルはあのあと猫から逃げ出して、無事あぜ道の中に脱出したのではないかと。そうやって用水路の流れに紛れて、やがて雨も止んだ頃小川のせせらぎに出て、今日も虫を食べているのではなかったのかと。
   
   平和に暮らしている事を祈るが、あのカエルにもう会う事も無いのはちょっぴり寂しい。
    今日も雨が降っている。こんな日はカエルを見かけると、あいつがひょっこり戻って来たような気がする。 あの時の道に出て、振り返るとカエルの影を見たような気がした。しばらく歩いてもう一度振り返ると、もう影はなく、路面に雨が降り注ぐばかりだった。

フェスボルタ文藝部

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