きっと恋する感覚だから(山内てっぺい)

 今日の昼休みに結海から先輩が東京の大学に行くということを聞いた。「そういえば〜」って言ってたけどどういえばなんだろう。というか別に私と先輩は何の関係も無いし、そりゃ先輩はなにかと私のこと可愛がってくれてるけどそういうんじゃ無いだろうし。そういえばこないだ「東京のお土産があるんだけど」とか言ってたな。受験生のくせにこんな時期に東京行って遊んでるなんて余裕だなとか思ってたけどそういうことだったのか。そうそうそうそうそうそうそ。うそいえば私は先輩のことが嫌いだ。だいっきらいだ!


 特に理由は無いけど、放課後遅くまで教室に残ってみた。持ってきた文庫本も読み切ったし課題も終えたからゆっくりと下駄箱に向かった。ゆーっくり向かったせいで先輩と会ってしまった。噂の先輩と不覚にも会ってしまった。先輩に「東京行くんですか?」と聞いてみたら「うん。あれ?言ってなかったっけ?こないだお土産あげたじゃん。あれ向こうの部屋決めに行った時のやつ。」と答えてくれた。知らなかった。もしかしたら言ってたかもしれないけど知らなかった。その日は先輩と途中まで一緒に帰った。「先輩で大学生になれるんですね。」とボソッと言ったら「お前もなれるよ。待ってるぞ。」と言われた。急に先輩らしい振る舞いをされてびっくりしたし、その「待ってるよ」の意味が、理系の私には分からなかった。


 寒い日が続いた。防寒着を着込んでもまだ寒い朝、駅から学校に向かって歩く途中にコンビニがある。私はたまにそこで暖かいココアを買う。紅茶やコーヒーよりも暖かいココアの方が好きだから。なんだか優しく後ろから抱きしめてくれるようなそんな感じがココアにはある気がする。冷えた手を暖めるためにギュッとココアのボトルを握っていると、後ろからそのココアが奪われた。振り返ると先輩がいた。こういうところが嫌いだ。先輩が私の分のココアのお金を払って一緒に外に出た。なんか付き合ってるみたいで恥ずかしかった。瞬時に結海がいないか確認した。いなかった。助かった。学校までの短い道を並んで歩く。落ち葉の上をゆっくり歩く。だめだ。付き合ってるみたいだ。困る。恥ずかしい。というかなにも思ってないのにどうしてこんなに恥ずかしくなるんだろうか。もう耐えられなくなってもうすぐ学校に着くというところで、とりあえずココアのお礼だけ言って走って1人で教室に向かった。


 昼休みに結海から朝のことを聞かれた。あれだけ周りを気にしたのに結海には見られていた。もっと言うとキョロキョロした私まで見られていたらしい。まさか結海がレジで先輩の後ろに並んでいたとは思わなかった。結海はこういうところがイジワルだし私はこういうところが抜けてる。散々バカにされて昼休みは終わった。それから放課後まで私は何にも考えられなかった。いつの間にか終わっていた授業の内容を覚えているわけがないしノートも真っ白だった。私のいるところだけ時間が止まったようなそんな感じだった。たまーにこんな感覚になる。初めて先輩と喋った後も、先輩に借りた本を一晩で読み終えた後も、先輩と帰った後も、先輩が綺麗な女の人と歩いていたのをみた後も、そして今も。そういえば、私は...先輩が...好きなのかもしれないという気持ちを認めたくなかった。なぜかはわからないけど、認めたくなかった。認めたくないけど多分好きなんだと思う。そろそろ素直に認めようと思う。私は先輩が大好きだ。たぶんあのたまーに私を襲ってくる感覚が、あの感覚が多分...

フェスボルタ文藝部

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