水曜土曜は可燃の日。(岡田靖幸)

 散髪屋から出て来て、この事態の収拾に取り掛かることは考えていた。水瀬ちゃんから電話での連絡が来た時、明らかに狼狽した様子から、龍樹の具合に異変が起きたことは明らかだったからだ。空は青く晴れていたが、反比例するかのごとく、いよいよ天気を精神の写し鏡、反転扉、使い方は違うけれど頼ってしまう!そんな心持ちになっていた。

 急いで家に戻ると、トイレに水瀬ちゃんが避難していて、
「早くどうにかしてよー」
と泣きべそだ。
「このツーブロックどうかな」
「あ、結構いいかも。でもすぐボサボサになるじゃん」
「ハゲるよかいーやろ」
「私ってハゲって言葉とワカメって言葉がセットになっちゃってるから今、ワカメの味噌汁飲みたくて仕方んよ!」
「ないがないだけで、どうにか我慢できそうじゃない?」
焦る気持ちが能天気な会話へと繋げてしまう。で、肝心の龍樹はというと目玉が身体中にざっと約22個と出来損ないが6個。全部の目がせわしなくギョロギョロ動いている。
「でもそれで思い出したけど、俺体育って聞くと、大体体育の授業って4時間目だったからさ。牛乳と直結するんだよね」
「あー給食? 私義務教育中に何故牛乳じゃないといけないのかの答え出せなかったな。水かお茶がフツーでしょ?」
「答え出たの?」
「あれ癒着ね」
強酸の唾液を垂れ流し、龍樹は部屋をノタノタ歩いている。畳の上をずりずり尻尾が擦れる音を立てていて、会話しながら2人ともオホホ〜って笑いにも似た悲鳴を出してる。
「いつから?」
「30分前かな」
これもう龍樹じゃないじゃん! って言えずに、どーしよっかーって方にシフト。
「愛の力でどうにかしろよ」
「コレにキスしろっての?」
「目を見て熱い抱擁をさ」
「どれを見ろってのよ!」
何が引き金か、目玉全部がこっちを向く。顔なんてもうありゃしない。巨大なダンゴムシの裏側をそのまま顔にあてがった蠢きしかない。
おおー、と洩らすしかない俺と水瀬ちゃん。
「燃えるゴミに出せるかな?」
「業務委託出来そうにないだろ」

 そっからどないしよ、手違いで他人にならん? て提案は却下。
「三人で大人になって、三人でハワイとかバリとか温泉入るって話してたじゃん! 薄情者!」
「おかしいだろ! 目玉つきすぎだし」

ゴギャーーーーー!!!!!!!!!
沈黙。
「…もう生前の龍樹思い出せねー」
「まだ生きてるから!!」
「生きてるってより、更新て感じだな」
ついには重力を無視して天井を歩き始めた龍樹。ジュッと酸で畳がポロポロになっていく。

「分かった!」
「包丁じゃ無理だと思う、あんた来る前に試したし。寧ろ研ぐのに向いてるよあのボディ」
「目玉だらけで弱点いっぱいそうだけど」
「全部逃げるんだよアレ」
ゾゾっと怖い。
「違う、やめろ、そんな話じゃない! 龍樹とハワイやバリや温泉行けるぞ!」
「やった!! どうするん?」
「見世物小屋やろう!」
バクバクドクドクと心臓の音が聞こえてきて、
「うわー、私アングラ無理なんだよね」
ハハハって、こんな部屋もう出たい。

フェスボルタ文藝部

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