彼女とさいだぁ(岡田靖幸)

 彼女は俺の前でさっきからずっとシティポップを歌ってる。泡が弾けるようなギターの音は夏を思い出させ、てか今夏だ。
「海に行こうか」
俺は顔を作って彼女に言うけど、
「え、今歌ってるから止まれないよー。超音速の恋だぜ」
ってブクブクさいだぁな彼女はとても薄着でスケスケなんだ。

 彼女のメドレーからループしたそれから10分間。海に行くより涼しげで夏を感じた。

 歪んだ道路をのたのた歩いていると、横の彼女は斜め前。ツンと鼻を上に向けて、身体全体で夏を受け止めてる。通りすがった家の飼い犬のムダ吠えすら、セミより確かにクリアに聞こえた。

 海が見えて、
「海はそこにずっとあるから、まずは喫茶店でソーダフロート飲もうよ」
俺は考えている。
喫茶店を出るまでに、期間限定の彼女のニックネーム。
彼女は考えている。明日の祭りの着物の柄を。

フェスボルタ文藝部

”電話一本で誰でも出られるフェス”こと『フェスボルタ』から、部活を始めます。小説、エッセイ、評論、体験談、旅行記、戯曲、インタビューetc.みんなで文章書こうぜ。

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